複合材料入門

繊維強化・粒子強化・積層理論・評価法をPythonで学ぶ

シリーズ概要

複合材料(Composite Materials)は、2種類以上の異なる材料を組み合わせることで、単一材料では得られない優れた性能を実現する先端材料です。 航空宇宙、自動車、スポーツ用品、建築構造など、軽量化と高強度化が求められる分野で広く応用されています。 本シリーズでは、複合材料の基礎原理から、繊維強化複合材料(CFRP/GFRP)、粒子・積層複合材料、評価技術、Python実践までを体系的に学習します。

難易度: 中級〜上級
想定読了時間: 各章30-40分(全シリーズ約3時間)
前提知識: 材料力学の基礎、Python基礎、応力-ひずみ関係の理解

各章には実行可能なPythonコード例、演習問題(Easy/Medium/Hard)、学習目標確認セクションが含まれています。 理論と実践を組み合わせた学習により、複合材料の設計と評価に必要な実務的スキルを身につけることができます。

第1章: 複合材料の基礎

複合材料の定義と分類(繊維強化、粒子強化、積層)、強化メカニズム(荷重伝達、クラック偏向)、界面と界面強度、 複合則(Rule of Mixtures、Halpin-Tsai式)、比強度・比剛性を学び、Pythonで実装します。

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第2章: 繊維強化複合材料

炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)、織物構造(平織、綾織、朱子織)、 一方向材と積層板、Classical Laminate Theory、成形プロセスをPythonで解析します。

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第3章: 粒子・積層複合材料

金属基複合材料(MMC: SiC/Al、B/Al)、セラミック基複合材料(CMC: SiC/SiC)、粒子強化メカニズム(Orowan機構)、 積層理論と応力分布、界面破壊力学をPythonでシミュレーションします。

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第4章: 複合材料の評価

機械試験(引張、圧縮、せん断、層間せん断)、非破壊評価(超音波、X線CT、サーモグラフィ)、 破壊解析、疲労試験とS-N曲線、環境劣化(吸湿、高温、UV)をPythonで解析します。

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第5章: Python実践ワークフロー

Classical Laminate Theory実装、積層構成最適化(遺伝的アルゴリズム)、有限要素法前処理、 機械学習による特性予測、多目的最適化を実践し、統合設計スキルを習得します。

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学習フロー

flowchart TD A[第1章: 複合材料の基礎
定義・分類・強化メカニズム
複合則・界面強度] --> B[第2章: 繊維強化複合材料
CFRP/GFRP・織物構造
積層板理論・A-B-D行列] B --> C[第3章: 粒子・積層複合材料
MMC/CMC・Orowan機構
積層理論・界面破壊] C --> D[第4章: 複合材料の評価
機械試験・非破壊評価
疲労・環境劣化] D --> E[第5章: Python実践
積層板最適化・FEM
機械学習・多目的最適化] style A fill:#f093fb,stroke:#f5576c,stroke-width:2px,color:#fff style B fill:#f5a3c7,stroke:#f5576c,stroke-width:2px,color:#fff style C fill:#f5b3a7,stroke:#f5576c,stroke-width:2px,color:#fff style D fill:#f5c397,stroke:#f5576c,stroke-width:2px,color:#fff style E fill:#f5576c,stroke:#f5576c,stroke-width:2px,color:#fff

よくある質問(FAQ)

Q1: 複合材料とは何ですか?単一材料との違いは?
複合材料は、2種類以上の異なる材料(強化材とマトリックス)を巨視的に組み合わせた材料です。 強化材(繊維、粒子)が荷重を支え、マトリックス(樹脂、金属、セラミック)が強化材を保持し、荷重を伝達します。 例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、炭素繊維(強度: 3-7 GPa)をエポキシ樹脂(強度: 50-100 MPa)に埋め込み、 繊維方向で1-2 GPaの強度を実現します。単一材料では達成できない、高強度・軽量・耐食性の組み合わせが可能です。
Q2: 繊維強化複合材料の強化メカニズムは?
荷重伝達メカニズムにより強化されます。マトリックスが荷重を受け、界面せん断応力を介して繊維に伝達します。 繊維は高い弾性率(炭素繊維: 200-600 GPa)を持つため、荷重の大部分を負担します。 Rule of Mixturesにより、複合材料の縦弾性率は E_c = E_f V_f + E_m V_m で予測されます(E: 弾性率、V: 体積分率、f: 繊維、m: マトリックス)。 繊維体積分率60%のCFRPでは、複合材料弾性率は約130-160 GPaに達します。第1章で詳しく学習します。
Q3: CFRPとGFRPの違いは何ですか?
CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)は炭素繊維を強化材とし、高強度・高剛性・軽量が特徴です。 炭素繊維の密度は1.8 g/cm³、引張強度3-7 GPa、弾性率200-600 GPaです。航空宇宙、レーシングカー、高級スポーツ用品に使用されます。 GFRP(Glass Fiber Reinforced Plastic)はガラス繊維を強化材とし、低コスト・電気絶縁性・耐食性が特徴です。 ガラス繊維の密度は2.5 g/cm³、引張強度2-3 GPa、弾性率70-85 GPaです。船舶、建築材料、自動車部品に広く使用されます。 第2章で詳細な比較と応用例を学習します。
Q4: Classical Laminate Theory(積層板理論)とは何ですか?
Classical Laminate Theory(CLT)は、積層板の力学挙動を予測する理論です。 各層(ply)の応力-ひずみ関係を積層全体に拡張し、A-B-D行列(Extensional-Coupling-Bending stiffness matrix)で表現します。 A行列は面内剛性、B行列は伸張-曲げ連成、D行列は曲げ剛性を表します。 積層構成 [0°/90°/±45°]_s(対称積層)では、B行列がゼロとなり、伸張と曲げが独立します。 第2章でPython実装を行い、積層構成の最適化を学習します。
Q5: 金属基複合材料(MMC)とは何ですか?
金属基複合材料(Metal Matrix Composite, MMC)は、金属マトリックス(Al、Ti、Mg)にセラミック粒子や繊維を分散させた材料です。 代表例はSiC粒子強化アルミニウム(SiC/Al)で、耐摩耗性、高剛性、低熱膨張係数を示します。 Orowan機構により、転位が粒子を迂回する際に必要な応力が増加し、強度が向上します。 Orowan応力は Δσ = 0.4 M G b / λ で与えられます(M: Taylor因子、G: せん断弾性率、b: Burgers vector、λ: 粒子間隔)。 自動車エンジン部品、ブレーキディスクに応用されます。第3章で詳しく学習します。
Q6: 複合材料の破壊モードにはどのようなものがありますか?
複合材料は3つの主要な破壊モードを示します:
  • 繊維破断(Fiber Breakage): 繊維が引張荷重で破断。縦方向強度を決定。
  • マトリックス割れ(Matrix Cracking): マトリックスにクラックが発生。横方向やせん断荷重で顕著。
  • 界面はく離(Delamination): 層間で剥離。圧縮・衝撃荷重で発生しやすい。
破壊モードは荷重方向、積層構成、界面強度に依存します。第4章で破壊解析と非破壊評価を学習します。
Q7: 複合材料の疲労特性はどう評価しますか?
疲労特性はS-N曲線(Stress-Number of cycles curve)により評価されます。 繰り返し荷重を加え、破壊までのサイクル数(N)を応力振幅(S)に対してプロットします。 金属とは異なり、複合材料は明確な疲労限が存在せず、低応力域でも徐々に損傷が蓄積します。 疲労寿命はパリス則 da/dN = C(ΔK)^m で予測されます(a: き裂長さ、ΔK: 応力拡大係数範囲、C, m: 材料定数)。 第4章でS-N曲線フィッティングとGoodman図作成をPythonで実践します。
Q8: 本シリーズで使用するPythonライブラリは何ですか?
主に以下のライブラリを使用します:
  • NumPy: 数値計算、行列演算(A-B-D行列、剛性計算)
  • SciPy: 最適化、統計解析、数値積分
  • Matplotlib: データ可視化、S-N曲線、Ashby chartプロット
  • scikit-learn: 機械学習による特性予測(第5章)
  • DEAP: 遺伝的アルゴリズムによる積層構成最適化(第5章)
全てのコード例は実行可能で、詳細なコメントが付いています。
Q9: 複合材料の実用例にはどのようなものがありますか?
複合材料は幅広い分野で応用されています:
  • 航空宇宙: Boeing 787(機体の50%がCFRP)、ロケットモーターケース
  • 自動車: BMW i3(CFRPシャシー)、F1レーシングカー(CFRPモノコック)
  • スポーツ用品: テニスラケット、ゴルフクラブ、自転車フレーム
  • 建築・土木: 橋梁補強(CFRP板接着)、耐震補強
  • エネルギー: 風力発電ブレード(GFRP)、圧力容器(CFRP)
各章で具体的な応用例と設計課題を紹介します。
Q10: 本シリーズを終えると何ができるようになりますか?
本シリーズを完了すると、以下のスキルを習得できます:
  • 複合材料の強化メカニズムを理解し、Rule of Mixturesで物性を予測できる
  • Classical Laminate Theoryを実装し、積層構成を設計できる
  • CFRP/GFRP/MMC/CMCの特性を理解し、用途に応じた材料選択ができる
  • 機械試験データ(S-N曲線、応力-ひずみ曲線)を解析できる
  • Pythonで積層板最適化、FEM前処理、機械学習予測ができる
実務レベルの複合材料設計と評価スキルを身につけることができます。