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第4章:固体の熱的性質

フォノンと巨視的熱物性の関係

📚 フォノン入門シリーズ ⏱️ 読了時間: 約2時間 📊 レベル: 入門

🎯 学習目標

はじめに

固体の熱的性質は、材料科学における最も基本的で重要な特性の一つです。 比熱、熱膨張、熱伝導などの性質は、材料の実用的な応用において決定的な役割を果たします。 これらの巨視的な熱物性は、微視的にはフォノン(格子振動の量子)によって支配されています。

本章では、フォノン理論と巨視的な熱的性質を結びつける理論的枠組みを学びます。 特に、比熱の温度依存性とその理論的記述、そして熱膨張とフォノンの非調和性の関係に焦点を当てます。

💡 なぜ熱的性質が重要か

材料設計への応用:

  • 熱管理: 電子機器の放熱設計には比熱と熱伝導の理解が必須
  • 精密機器: 光学系や計測装置では熱膨張係数の制御が重要
  • エネルギー貯蔵: 蓄熱材料では高比熱が求められる
  • 低温物理: 超伝導デバイスの熱設計には低温比熱の知識が必要

古典的比熱理論とその限界

Dulong-Petitの法則

19世紀初頭、Dulong と Petit は実験により、多くの固体元素の定容モル比熱が室温付近で ほぼ一定の値を示すことを発見しました。

$$ C_V \approx 3R = 24.94 \, \text{J/(mol·K)} $$

ここで、\(R\) は気体定数です。この経験則は古典的な統計力学から導出できます。

古典的導出

固体中の各原子は3次元の調和振動子として振る舞うと仮定します。 古典統計力学のエネルギー等分配則により、各自由度あたり平均エネルギーは \(k_B T\) です。

エネルギー等分配則

古典統計力学において、熱平衡状態にある系の各二次の自由度(運動エネルギーや位置エネルギー)は、 平均して \(\frac{1}{2}k_B T\) のエネルギーを持ちます。

3次元調和振動子の場合:

  • 運動エネルギー: 3自由度 → \(\frac{3}{2}k_B T\)
  • 位置エネルギー: 3自由度 → \(\frac{3}{2}k_B T\)
  • 合計: \(3k_B T\)

\(N\) 個の原子を持つ系の全エネルギーは:

$$ U = 3Nk_B T $$

定容比熱は \(C_V = \left(\frac{\partial U}{\partial T}\right)_V\) なので:

$$ C_V = 3Nk_B = 3R \quad (\text{1モルあたり}) $$

古典理論の限界

しかし、精密な実験により、Dulong-Petit則は以下の状況で破綻することが明らかになりました:

graph TD A[Dulong-Petit則の破綻] --> B[低温での比熱減少] A --> C[軽元素での室温偏差] A --> D[量子効果の重要性] B --> B1["T→0でC_V→0
(古典論では3R)"] C --> C1["ダイヤモンド、ベリリウム
室温でC_V < 3R"] D --> D1["量子統計が必要
フォノンの離散性"] style A fill:#f093fb style B fill:#e3f2fd style C fill:#e3f2fd style D fill:#fff3e0
物質 デバイ温度 (K) 室温比熱 (J/mol·K) 3Rとの差
鉛 (Pb) 105 26.4 +6%
銅 (Cu) 343 24.5 -2%
アルミニウム (Al) 428 24.2 -3%
ダイヤモンド (C) 2230 6.1 -76%

⚠️ 古典論が失敗する理由

古典統計力学は、エネルギーが連続的に取り得ると仮定しています。 しかし、フォノンのエネルギーは量子化されており、 \(E_n = \hbar\omega(n + 1/2)\) の離散的な値のみを取ります。

温度が低い、または振動数が高い場合、\(\hbar\omega \gg k_B T\) となり、 フォノンを励起するために必要なエネルギーが熱エネルギーを大きく上回ります。 この場合、多くのモードが「凍結」され、比熱への寄与が抑制されます。

Einsteinモデル

モデルの仮定

1907年、Einstein は量子論を用いて固体の比熱を説明する最初のモデルを提案しました。 このモデルの核心的な仮定は以下の通りです:

Einsteinモデルの仮定

  • 固体中の\(N\)個の原子は、互いに独立な3次元量子調和振動子として振る舞う
  • 全ての振動子は同じ角振動数 \(\omega_E\)(Einstein振動数)を持つ
  • 各振動子のエネルギーは量子化されている: \(E_n = \hbar\omega_E(n + 1/2)\)

理論的導出

量子調和振動子の平均エネルギーは、Bose-Einstein分布を用いて計算されます:

$$ \langle n \rangle = \frac{1}{e^{\hbar\omega_E/k_B T} - 1} $$

1つの調和振動子の平均エネルギー(零点エネルギーを除く)は:

$$ \langle E \rangle = \hbar\omega_E \langle n \rangle = \frac{\hbar\omega_E}{e^{\hbar\omega_E/k_B T} - 1} $$

\(N\)個の原子があり、各原子が3つの振動モードを持つため、全エネルギーは:

$$ U = 3N \frac{\hbar\omega_E}{e^{\hbar\omega_E/k_B T} - 1} $$

定容比熱は:

$$ C_V = \frac{\partial U}{\partial T} = 3Nk_B \left(\frac{\hbar\omega_E}{k_B T}\right)^2 \frac{e^{\hbar\omega_E/k_B T}}{(e^{\hbar\omega_E/k_B T} - 1)^2} $$

Einstein温度 \(\Theta_E = \hbar\omega_E/k_B\) を導入すると:

$$ C_V = 3Nk_B \left(\frac{\Theta_E}{T}\right)^2 \frac{e^{\Theta_E/T}}{(e^{\Theta_E/T} - 1)^2} = 3R \cdot f_E(T/\Theta_E) $$

ここで、\(f_E(x)\) はEinstein関数と呼ばれます。

極限挙動

高温極限 (\(T \gg \Theta_E\))

\(x = \Theta_E/T \ll 1\) のとき、\(e^x \approx 1 + x\) を用いて:

$$ C_V \approx 3Nk_B \cdot x^2 \cdot \frac{1+x}{x^2} \approx 3Nk_B = 3R $$

これは古典的なDulong-Petit則を再現します。

低温極限 (\(T \ll \Theta_E\))

\(x = \Theta_E/T \gg 1\) のとき:

$$ C_V \approx 3Nk_B \left(\frac{\Theta_E}{T}\right)^2 e^{-\Theta_E/T} $$

低温で比熱が急速に減少し、\(T \to 0\) で \(C_V \to 0\) となることが予測されます。 これは実験事実と一致します。

💡 Einsteinモデルの成功

  • ✅ 低温での比熱の減少を定性的に説明
  • ✅ 高温でDulong-Petit則への収束
  • ✅ 量子統計の重要性を実証
  • ❌ 低温での温度依存性が実験と定量的に不一致(指数関数的減少 vs. べき乗則)

Debyeモデル

モデルの動機

Einsteinモデルは低温での比熱減少を定性的に説明しましたが、 実験データとの定量的な一致は不十分でした。特に、極低温での比熱は:

$$ C_V \propto T^3 \quad (\text{実験}) $$ $$ C_V \propto e^{-\Theta_E/T} \quad (\text{Einstein}) $$

この不一致の原因は、Einsteinモデルが全てのフォノンモードに同じ振動数を 仮定していることにあります。実際には、フォノンは連続的な振動数分布 (フォノン状態密度)を持ちます。

Debyeモデルの仮定

1912年、Debye はより現実的なモデルを提案しました:

Debyeモデルの仮定

  • 結晶を等方的な弾性連続体として扱う
  • 3つの音響フォノンブランチ(1つの縦波、2つの横波)を考慮
  • 分散関係は線形: \(\omega = v_s k\)(\(v_s\)は音速)
  • Debye カットオフ振動数 \(\omega_D\) で状態密度を打ち切る(全モード数 = \(3N\))

Debye状態密度

前章で学んだように、3次元等方的系でのフォノン状態密度は:

$$ g(\omega) = \frac{3V}{2\pi^2 v_s^3} \omega^2 \quad (\omega \leq \omega_D) $$ $$ g(\omega) = 0 \quad (\omega > \omega_D) $$

Debye カットオフは、全モード数が \(3N\) となる条件から決まります:

$$ \int_0^{\omega_D} g(\omega) d\omega = 3N $$

これより:

$$ \omega_D = v_s \left(\frac{6\pi^2 N}{V}\right)^{1/3} $$

Debye温度

Debye温度を定義します:

$$ \Theta_D = \frac{\hbar\omega_D}{k_B} $$

Debye温度は物質固有の特性値で、フォノンスペクトルの典型的なエネルギースケールを表します。

比熱の計算

内部エネルギーは状態密度を用いて:

$$ U = \int_0^{\omega_D} \hbar\omega \cdot \frac{1}{e^{\hbar\omega/k_B T} - 1} \cdot g(\omega) d\omega $$

無次元変数 \(x = \hbar\omega/k_B T\)、\(x_D = \Theta_D/T\) を用いて:

$$ U = 9Nk_B T \left(\frac{T}{\Theta_D}\right)^3 \int_0^{x_D} \frac{x^3}{e^x - 1} dx $$

定容比熱は:

$$ C_V = 9Nk_B \left(\frac{T}{\Theta_D}\right)^3 \int_0^{\Theta_D/T} \frac{x^4 e^x}{(e^x - 1)^2} dx = 3R \cdot D(\Theta_D/T) $$

ここで、\(D(x)\) はDebye関数と呼ばれます。

極限挙動

高温極限 (\(T \gg \Theta_D\))

\(x_D = \Theta_D/T \to 0\) のとき、積分は:

$$ \int_0^{x_D} \frac{x^4 e^x}{(e^x - 1)^2} dx \approx \int_0^{x_D} x^2 dx = \frac{x_D^3}{3} $$

したがって:

$$ C_V \approx 3Nk_B = 3R $$

再びDulong-Petit則を再現します。

低温極限 (\(T \ll \Theta_D\))

\(x_D \to \infty\) のとき、積分の上限を無限大に拡張できます:

$$ \int_0^\infty \frac{x^4 e^x}{(e^x - 1)^2} dx = \frac{4\pi^4}{15} $$

これは定数です。したがって:

$$ C_V = 9Nk_B \left(\frac{T}{\Theta_D}\right)^3 \cdot \frac{4\pi^4}{15} = \frac{12\pi^4}{5} Nk_B \left(\frac{T}{\Theta_D}\right)^3 $$

🎯 Debyeの \(T^3\) 則

低温での比熱の温度依存性:

$$ C_V = \frac{12\pi^4}{5} R \left(\frac{T}{\Theta_D}\right)^3 \approx 234 \, R \left(\frac{T}{\Theta_D}\right)^3 $$

この \(T^3\) 依存性は実験結果と優れた一致を示し、Debyeモデルの大きな成功です。

\(T^3\) 則の物理的起源

なぜ低温で \(C_V \propto T^3\) となるのでしょうか?これは以下の要因の組み合わせです:

graph LR A["T³則の起源"] --> B["状態密度: g(ω)∝ω²"] A --> C["励起確率: ∝T³"] A --> D["線形分散: ω=v_s k"] B --> E["3次元効果"] C --> F["Bose統計"] D --> G["音響フォノン"] E --> H["C_V ∝ T³"] F --> H G --> H style A fill:#f093fb style H fill:#8bc34a
  1. 状態密度の \(\omega^2\) 依存性: Debyeモデルでは \(g(\omega) \propto \omega^2\)
  2. Bose分布の低エネルギー展開: 低温では \(\hbar\omega \ll k_B T\) のモードのみが励起される
  3. 位相空間の体積要素: 3次元では \(k^2 dk \propto \omega^2 d\omega\)

実験との比較

Debyeモデルは多くの単体固体で実験データと良い一致を示します。 以下の図は、銅の比熱の温度依存性を示します:

温度領域 理論予測 実験結果 一致度
\(T \ll \Theta_D\) (低温) \(C_V \propto T^3\) \(C_V \propto T^3\) 優秀 ✓✓✓
\(T \approx 0.1\Theta_D\) Debye関数 ほぼ一致 良好 ✓✓
\(T \approx \Theta_D\) Debye関数 若干の偏差 許容 ✓
\(T \gg \Theta_D\) (高温) \(C_V = 3R\) \(C_V \approx 3R\) (若干増加) 良好 ✓✓

⚠️ Debyeモデルの限界

  • 実際の分散関係は線形ではない(特に高振動数領域)
  • 光学フォノンが無視されている
  • 異方性が考慮されていない
  • 複雑な結晶構造では精度が低下

これらの限界にもかかわらず、Debyeモデルは簡潔で物理的に透明なため、 現在でも広く使用されています。

熱膨張とGrüneisen理論

熱膨張の基礎

固体を加熱すると、一般に体積が増加します。この現象を熱膨張と呼びます。 線熱膨張係数 \(\alpha_L\) と体積膨張係数 \(\alpha_V\) は以下のように定義されます:

$$ \alpha_L = \frac{1}{L}\frac{dL}{dT}, \quad \alpha_V = \frac{1}{V}\frac{dV}{dT} $$

等方的物質では \(\alpha_V \approx 3\alpha_L\) です。

調和近似の問題

驚くべきことに、純粋な調和ポテンシャルを持つ結晶は熱膨張を示しません。 調和ポテンシャルは \(V(x) = \frac{1}{2}kx^2\) の形で、平衡位置は温度に依存しないためです。

💡 熱膨張には非調和性が必要

熱膨張が生じるためには、ポテンシャルに非調和項(例: \(x^3\), \(x^4\) 項)が必要です。 実際の原子間ポテンシャルは非対称で、引力側より斥力側が急峻です(Lennard-Jonesポテンシャル等)。

$$ V(r) = 4\epsilon \left[\left(\frac{\sigma}{r}\right)^{12} - \left(\frac{\sigma}{r}\right)^6\right] $$

この非対称性により、温度上昇(振動振幅増大)に伴い、時間平均の原子間距離が増加します。

Grüneisenパラメータ

Grüneisen は、フォノン振動数の体積依存性を記述するパラメータを導入しました:

$$ \gamma_i = -\frac{d \ln \omega_i}{d \ln V} = -\frac{V}{\omega_i}\frac{\partial \omega_i}{\partial V} $$

ここで、\(\omega_i\) は \(i\) 番目のフォノンモードの角振動数です。 \(\gamma_i\) は、体積変化に対するフォノン振動数の相対的な変化率を表します。

多くの物質で \(\gamma_i\) は正で、おおよそ1〜2の値を取ります。 これは、結晶が圧縮されるとフォノン振動数が上昇することを意味します。

平均Grüneisenパラメータ

実用的には、全てのモードを平均した(\gamma\) を定義します:

$$ \gamma = \frac{\sum_i \gamma_i C_{V,i}}{\sum_i C_{V,i}} = \frac{\sum_i \gamma_i C_{V,i}}{C_V} $$

ここで、\(C_{V,i}\) は各モードの比熱への寄与です。

熱膨張との関係

熱力学的な導出により、体積膨張係数は以下のように表されます:

$$ \alpha_V = \frac{\gamma C_V}{BV} $$

ここで、\(B\) は体積弾性率(bulk modulus)です。 この関係式は、熱膨張が以下の3つの量によって決まることを示しています:

graph TD A[熱膨張 α_V] --> B["非調和性
γ"] A --> C["励起フォノン数
C_V"] A --> D["弾性的硬さ
B"] B --> E["ポテンシャルの
非対称性"] C --> F["温度
T"] D --> G["原子間結合
の強さ"] style A fill:#f093fb style B fill:#e3f2fd style C fill:#e3f2fd style D fill:#e3f2fd

低温での熱膨張

Debyeモデルでは、低温で \(C_V \propto T^3\) なので:

$$ \alpha_V \propto T^3 \quad (T \ll \Theta_D) $$

この予測は多くの絶縁体で実験的に確認されています。 金属では電子の寄与も考慮する必要があります(\(\alpha_V \propto T\) の項が追加)。

代表的な物質のGrüneisenパラメータ

物質 \(\gamma\) \(\Theta_D\) (K) \(\alpha_V\) (10⁻⁵ K⁻¹, 300K)
ダイヤモンド (C) 0.8 2230 0.36
シリコン (Si) 1.0 645 2.6
銅 (Cu) 2.0 343 5.0
アルミニウム (Al) 2.2 428 6.9
鉛 (Pb) 2.7 105 8.7

💡 傾向の理解

  • 強い共有結合: 小さい\(\gamma\)、小さい\(\alpha_V\)(ダイヤモンド)
  • 弱い金属結合: 大きい\(\gamma\)、大きい\(\alpha_V\)(鉛)
  • 高デバイ温度: 室温で比熱が飽和していない → 小さい\(\alpha_V\)

比熱計算のPythonコード

EinsteinモデルとDebyeモデルによる比熱計算を実装し、温度依存性を可視化してみましょう。

基本的な実装

import numpy as np
import matplotlib.pyplot as plt
from scipy.integrate import quad

# 物理定数
R = 8.314  # 気体定数 [J/(mol·K)]
k_B = 1.380649e-23  # Boltzmann定数 [J/K]
hbar = 1.054571817e-34  # Reduced Planck定数 [J·s]

class HeatCapacityModels:
    """固体の比熱を計算するモデルクラス"""

    def __init__(self, theta_E=None, theta_D=None):
        """
        Parameters:
        -----------
        theta_E : float
            Einstein温度 [K]
        theta_D : float
            Debye温度 [K]
        """
        self.theta_E = theta_E
        self.theta_D = theta_D

    def einstein_heat_capacity(self, T):
        """
        Einsteinモデルによる定容モル比熱を計算

        Parameters:
        -----------
        T : float or array
            温度 [K]

        Returns:
        --------
        C_V : float or array
            定容モル比熱 [J/(mol·K)]
        """
        if self.theta_E is None:
            raise ValueError("Einstein temperature not set")

        x = self.theta_E / T
        C_V = 3 * R * x**2 * np.exp(x) / (np.exp(x) - 1)**2
        return C_V

    def debye_integrand(self, x):
        """Debye積分の被積分関数"""
        if x < 1e-10:  # 0除算回避
            return 0
        return x**4 * np.exp(x) / (np.exp(x) - 1)**2

    def debye_heat_capacity(self, T):
        """
        Debyeモデルによる定容モル比熱を計算

        Parameters:
        -----------
        T : float or array
            温度 [K]

        Returns:
        --------
        C_V : float or array
            定容モル比熱 [J/(mol·K)]
        """
        if self.theta_D is None:
            raise ValueError("Debye temperature not set")

        # スカラー値の場合
        if np.isscalar(T):
            if T < 1e-10:
                return 0
            x_D = self.theta_D / T
            integral, _ = quad(self.debye_integrand, 0, x_D)
            C_V = 9 * R * (T / self.theta_D)**3 * integral
            return C_V

        # 配列の場合
        C_V = np.zeros_like(T)
        for i, temp in enumerate(T):
            if temp > 1e-10:
                x_D = self.theta_D / temp
                integral, _ = quad(self.debye_integrand, 0, x_D)
                C_V[i] = 9 * R * (temp / self.theta_D)**3 * integral
        return C_V

    def debye_T3_law(self, T):
        """
        Debye T³則(低温極限)

        Parameters:
        -----------
        T : float or array
            温度 [K]

        Returns:
        --------
        C_V : float or array
            定容モル比熱 [J/(mol·K)]
        """
        if self.theta_D is None:
            raise ValueError("Debye temperature not set")

        return (12 * np.pi**4 / 5) * R * (T / self.theta_D)**3


# 使用例: 銅の比熱
theta_D_Cu = 343  # 銅のDebye温度 [K]
theta_E_Cu = 240  # 銅の等価Einstein温度 [K]

model = HeatCapacityModels(theta_E=theta_E_Cu, theta_D=theta_D_Cu)

# 温度範囲を設定
T = np.linspace(1, 500, 200)

# 各モデルで計算
C_einstein = model.einstein_heat_capacity(T)
C_debye = model.debye_heat_capacity(T)
C_T3 = model.debye_T3_law(T)

# 可視化
plt.figure(figsize=(10, 6))
plt.plot(T, C_einstein, label='Einstein model', linewidth=2)
plt.plot(T, C_debye, label='Debye model', linewidth=2)
plt.plot(T, C_T3, '--', label='Debye T³ law', linewidth=2, alpha=0.7)
plt.axhline(y=3*R, color='gray', linestyle='--',
            label='Dulong-Petit (3R)', alpha=0.5)

plt.xlabel('Temperature (K)', fontsize=12)
plt.ylabel('$C_V$ [J/(mol·K)]', fontsize=12)
plt.title('Heat Capacity Models for Copper', fontsize=14, fontweight='bold')
plt.legend(fontsize=10)
plt.grid(True, alpha=0.3)
plt.xlim(0, 500)
plt.ylim(0, 28)

plt.tight_layout()
plt.show()

低温領域の詳細比較

# 低温領域のズームイン
T_low = np.linspace(1, 100, 100)

C_einstein_low = model.einstein_heat_capacity(T_low)
C_debye_low = model.debye_heat_capacity(T_low)
C_T3_low = model.debye_T3_law(T_low)

fig, (ax1, ax2) = plt.subplots(1, 2, figsize=(14, 5))

# 線形スケール
ax1.plot(T_low, C_einstein_low, label='Einstein', linewidth=2)
ax1.plot(T_low, C_debye_low, label='Debye', linewidth=2)
ax1.plot(T_low, C_T3_low, '--', label='T³ law', linewidth=2)
ax1.set_xlabel('Temperature (K)', fontsize=12)
ax1.set_ylabel('$C_V$ [J/(mol·K)]', fontsize=12)
ax1.set_title('Low Temperature: Linear Scale', fontsize=13, fontweight='bold')
ax1.legend(fontsize=10)
ax1.grid(True, alpha=0.3)

# 対数スケール
ax2.semilogy(T_low, C_einstein_low, label='Einstein', linewidth=2)
ax2.semilogy(T_low, C_debye_low, label='Debye', linewidth=2)
ax2.semilogy(T_low, C_T3_low, '--', label='T³ law', linewidth=2)
ax2.set_xlabel('Temperature (K)', fontsize=12)
ax2.set_ylabel('$C_V$ [J/(mol·K)]', fontsize=12)
ax2.set_title('Low Temperature: Log Scale', fontsize=13, fontweight='bold')
ax2.legend(fontsize=10)
ax2.grid(True, alpha=0.3, which='both')

plt.tight_layout()
plt.show()

# T³則の検証
T_verify = np.linspace(5, 50, 10)
C_debye_verify = model.debye_heat_capacity(T_verify)

# C_V / T³ をプロット(一定値になるはず)
plt.figure(figsize=(8, 5))
plt.plot(T_verify, C_debye_verify / T_verify**3, 'o-',
         markersize=8, linewidth=2)
plt.xlabel('Temperature (K)', fontsize=12)
plt.ylabel('$C_V / T^3$ [J/(mol·K⁴)]', fontsize=12)
plt.title('Verification of T³ Law', fontsize=14, fontweight='bold')
plt.grid(True, alpha=0.3)
plt.tight_layout()
plt.show()

複数の物質の比較

# 代表的な物質のDebye温度
materials = {
    'Lead (Pb)': 105,
    'Copper (Cu)': 343,
    'Aluminum (Al)': 428,
    'Silicon (Si)': 645,
    'Diamond (C)': 2230
}

plt.figure(figsize=(12, 7))

for material, theta_D in materials.items():
    model_temp = HeatCapacityModels(theta_D=theta_D)
    T_range = np.linspace(1, 1000, 200)
    C_V = model_debye_heat_capacity(T_range)

    plt.plot(T_range/theta_D, C_V/(3*R), label=material, linewidth=2)

plt.axhline(y=1.0, color='gray', linestyle='--',
            label='Classical limit', alpha=0.5)
plt.xlabel('$T / \\Theta_D$ (reduced temperature)', fontsize=12)
plt.ylabel('$C_V / 3R$ (reduced heat capacity)', fontsize=12)
plt.title('Universal Debye Heat Capacity Curve',
          fontsize=14, fontweight='bold')
plt.legend(fontsize=10)
plt.grid(True, alpha=0.3)
plt.xlim(0, 3)
plt.ylim(0, 1.1)

plt.tight_layout()
plt.show()

💡 コードのポイント

  • 数値積分: scipy.integrate.quad でDebye積分を計算
  • 無次元化: \(T/\Theta_D\) でプロットすると全物質が1つの曲線に重なる
  • 低温での違い: 対数プロットでEinstein(指数)とDebye(べき)の差が明確
  • T³則の検証: \(C_V/T^3\) が低温で一定値に近づく

熱的性質の温度依存性まとめ

本章で学んだ熱的性質の温度依存性を、温度領域ごとに整理しましょう。

温度領域別の挙動

温度領域 比熱 \(C_V\) 熱膨張 \(\alpha_V\) 支配的な物理
\(T \to 0\) \(\propto T^3\) (絶縁体)
\(\propto T\) (金属電子)
\(\propto T^3\) (絶縁体)
\(\propto T\) (金属)
音響フォノンのみ励起
量子効果顕著
\(T \sim 0.1\Theta_D\) Debye関数に従う \(\gamma C_V / BV\) 長波長フォノン主体
\(T \sim \Theta_D\) 急速に増加 急速に増加 全フォノンモードの励起開始
\(T \gg \Theta_D\) \(\approx 3R\) (Dulong-Petit) ほぼ一定(若干増加) 古典極限
全モード完全励起
\(T \gg \Theta_D\) (高温) 若干増加
(非調和効果)
増加継続
(非調和性の増大)
調和近似の破綻
格子不安定性の前兆

異なる物質クラスでの振る舞い

graph TD A[固体の熱的性質] --> B[絶縁体] A --> C[金属] A --> D[半導体] B --> B1["C_V: T³則
α_V: T³則"] C --> C1["C_V: T³+γ_e T
α_V: T³+aT"] D --> D2["C_V: T³
(キャリア励起で複雑化)"] B1 --> E[フォノン支配] C1 --> F[フォノン+電子] D2 --> G[フォノン+バンドギャップ効果] style A fill:#f093fb style E fill:#8bc34a style F fill:#8bc34a style G fill:#8bc34a

金属の電子比熱

金属では、伝導電子も比熱に寄与します。自由電子モデルでは:

$$ C_{V,\text{電子}} = \gamma_e T $$

ここで、\(\gamma_e\) は電子比熱係数で、Fermiエネルギーと状態密度に依存します。 低温では、電子比熱とフォノン比熱は:

$$ C_V = \gamma_e T + AT^3 $$

\(C_V/T\) を \(T^2\) に対してプロットすると直線になり(Sommerfeld plot)、 傾きから \(A\)(フォノン)、切片から \(\gamma_e\)(電子)が決定できます。

実験手法との対応

測定量 主な測定手法 得られる情報
比熱 \(C_V\), \(C_p\) 断熱熱量計
緩和法(PPMS等)
Debye温度 \(\Theta_D\)
電子比熱係数 \(\gamma_e\)
相転移
熱膨張 \(\alpha_V\) ディラトメトリー
X線回折(温度変化)
Grüneisenパラメータ \(\gamma\)
非調和性
フォノン分散 中性子非弾性散乱
ラマン分光
状態密度 \(g(\omega)\)
直接的な \(\Theta_D\) 決定

📌 本章のまとめ

演習問題

演習 4.1: Dulong-Petit則の検証

問題: 銅(原子量63.5 g/mol)のモル比熱が室温(300 K)で24.5 J/(mol·K) です。 Dulong-Petit則からの偏差を計算し、その理由を説明してください。 銅のDebye温度は343 Kです。

ヒント: 300 K は \(\Theta_D\) に近いため、高温極限の仮定が完全には成立していません。

演習 4.2: Einsteinモデルの計算

問題: Einstein温度が 240 K の物質について、温度 50 K, 150 K, 300 K での モル比熱を計算してください。Dulong-Petit値(3R)に対する割合も求めてください。

式: \[ C_V = 3R \left(\frac{\Theta_E}{T}\right)^2 \frac{e^{\Theta_E/T}}{(e^{\Theta_E/T} - 1)^2} \]

演習 4.3: Debye T³則の検証

問題: あるダイヤモンド試料で、温度 10 K でモル比熱が 0.05 J/(mol·K) と測定されました。 Debye温度 2230 K を用いて、T³則による予測値を計算し、実測値と比較してください。

式: \[ C_V = \frac{12\pi^4}{5} R \left(\frac{T}{\Theta_D}\right)^3 \approx 1943.8 \, R \left(\frac{T}{\Theta_D}\right)^3 \]

演習 4.4: Grüneisenパラメータの推定

問題: 室温(300 K)で以下の物性値を持つアルミニウムのGrüneisenパラメータを推定してください:

  • 線熱膨張係数: \(\alpha_L = 2.3 \times 10^{-5}\) K⁻¹
  • モル比熱: \(C_V \approx 24\) J/(mol·K)
  • 体積弾性率: \(B = 76\) GPa
  • モル体積: \(V_m = 10\) cm³/mol

ヒント: \(\alpha_V \approx 3\alpha_L\) と \(\alpha_V = \gamma C_V / BV\) を使用。 単位換算に注意(1 GPa = 10⁹ Pa = 10⁹ J/m³)。

演習 4.5: Pythonでの比熱シミュレーション

問題: 本章のPythonコードを使用して、以下を実行してください:

  1. シリコン(\(\Theta_D = 645\) K)について、1 K から 1000 K までの比熱をプロット
  2. 50 K 以下の温度範囲で、\(C_V/T^3\) vs \(T\) のグラフを作成し、T³則の成立を確認
  3. EinsteinモデルとDebyeモデルの差が最大となる温度を見つける

演習 4.6: 金属の電子比熱(発展)

問題: 銅の極低温(1-10 K)での比熱データから、電子比熱係数 \(\gamma_e\) とDebye温度を 決定する方法を説明してください。Sommerfeld plotを用いた解析手順を述べてください。

ヒント: \(C_V = \gamma_e T + AT^3\) より \(C_V/T = \gamma_e + AT^2\)。 \(C_V/T\) を \(T^2\) に対してプロットすると直線になります。

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